近年、社会全体で「働き方改革」が進んでいるにもかかわらず、霞が関だけはまるで時間が止まったかのように見えます。
深夜、まだ明かりが消えない官庁の窓。疲れ果てた官僚がパソコンに向かい、翌朝の国会答弁書を必死に仕上げている——そんな「ブラック霞が関」現象が、いまだに続いているのです。
2025年11月、高市早苗首相が“午前3時から公務を開始した”というニュースは、多くの国民に衝撃を与えました。
「首相がそんな時間に働いているの!?」と驚く声と同時に、「それだけ官僚たちも働かされているのでは?」という懸念が広がりました。
この記事では、その「午前3時出勤」発言の裏に隠された構造的問題と、ブラック霞が関の根深い実態、そして今後の改革の可能性までを徹底的に掘り下げます。
1. 「ブラック霞が関」はいまだ解消されず——官僚たちの悲鳴
「霞が関=激務」。このイメージは長年語られ続けていますが、2025年の今もほとんど変わっていません。
国家公務員の平均残業時間は月80時間を超えるケースが珍しくなく、過労やメンタル不調での離職も後を絶ちません。
実際、読売新聞の調査によると、若手官僚の**3人に1人が「10年以内に辞めたい」**と回答しています。
理由のトップは「長時間労働と将来への不安」でした。
(出典:読売新聞)
さらに国会対応時の実態をみると、官僚が首相や閣僚の国会答弁書を作成する平均時刻は午前1時48分。
場合によっては午前2時過ぎまで作業が続くこともあります。
(出典:YouTubeニュース)
調査項目
平均時間
最も遅いケース
答弁書完成時間
午前1時48分
午前2時10分
官僚の平均退庁時間
午前2時30分
午前3時以降
睡眠時間
3〜4時間
2時間未満
このような状況が常態化すれば、当然のことながら若手離れが進行します。
日本経済新聞の報道によると、官僚の志願者数はピーク時の3分の1にまで減少しており、人材確保が危機的状況にあるそうです。
(出典:日本経済新聞)
2. 高市早苗首相の「午前3時出勤」──その裏で何が起きていたのか?
2025年11月初旬、高市首相が首相公邸に午前3時すぎに出勤したというニュースが話題になりました。
この異例の行動の背景には、「野党からの質問通告が遅れたため、答弁書の最終確認が明け方になった」という事情があります。
つまり、「首相が早朝から働いた」のではなく、「答弁準備が終わらなかったからその時間になった」のです。
この構造こそが、まさに「ブラック霞が関」を象徴しています。
高市首相自身も「ほとんど寝ていない」と語り、官僚や秘書官に謝罪したと報じられました。
(出典:毎日新聞)
野党の質問通告の遅れが要因という見方も強く、元官僚は「締切の遅れが官僚の生活を直撃している」とコメントしています。
(出典:日刊スポーツ)
この問題を端的に示すのが、次の構造図です。
原因
結果
質問通告が深夜に届く
官僚が答弁書を徹夜で作成
答弁内容の確認に時間がかかる
首相・閣僚も深夜対応
結果的に官僚全体の労働時間が増加
メンタル不調・離職増加
この連鎖を断ち切らない限り、ブラック霞が関は永遠に続くでしょう。
3. 霞が関の「長時間労働」を生む構造的な原因
「野党の通告遅れ」だけが原因ではありません。
霞が関の労働環境を蝕んでいるのは、より深い構造的な問題です。
💡主な原因
政策量の増加 少子化、AI政策、防衛費拡大、経済安全保障など、同時並行で進む大型政策。 官僚1人当たりの業務量は20年前の約1.8倍に増加。 人員不足 国家公務員の定員はこの10年で約15%減少。 仕事量は増えているのに、人手は減っているという逆転現象が起きています。 デジタル化の遅れ 「ハンコ」「紙」「FAX文化」が根強く残る霞が関。 Forbes JAPANの調査によると、官僚の**約40%が「DX推進に抵抗を感じる部署がある」**と回答しています。 (出典:Forbes JAPAN) 過剰な確認文化 1枚の資料に対して上司→課長→局長→次官→大臣と何度もハンコを押す「稟議ループ」。 この非効率さが残業を膨らませています。
こうした“昭和型労働構造”が令和の時代にも続いているのです。
4. 専門家・政治家たちの反応──「官僚が潰れる前に改革を」
高市首相の深夜出勤をめぐっては、「仕事熱心で頼もしい」という好意的な声もある一方で、「このままでは官僚組織が崩壊する」という警告も多く聞かれます。
ZAITEN誌の千正康裕氏(元官僚)は、次のように語っています。
「霞が関は“心の過労死”が起きている。
上司も部下も、みんなが疲れ切っている。
このままでは行政の質そのものが落ちてしまう」
(出典:ZAITEN)
また、日本維新の会・吉村代表も「質問通告のルールを見直すべき」と発言し、制度的改善を求めています。
一方、若手官僚たちの間では「自分たちの努力だけではどうにもならない」という声が多数。
もはや個人の頑張りで解決できる段階を超えているのです。
5. 改革への道筋──デジタル化と「働き方の再設計」が鍵
では、この状況をどう変えればよいのでしょうか?
専門家たちは次の3つの方向性を提案しています。
🧭 改革の3本柱
質問通告の締切ルールの明確化 野党・与党問わず、質問通告を前日午後までに提出する「タイムリミット制」を導入。 業務プロセスのデジタル化 AIによる文書作成支援や、電子決裁の完全導入で「紙・ハンコ文化」を撤廃。 勤務時間の可視化と評価制度の見直し 人事院が提唱する「勤務時間データ連動型評価制度」を導入し、残業の多さを評価対象から外す。
また、若手官僚の意識変化にも注目が集まっています。
「安定」よりも「やりがい」や「成長」を重視する世代が増え、ブラックな職場では人材が定着しません。
(出典:TRANS+)
6. まとめ──“午前3時出勤”は、警鐘だったのかもしれない
高市早苗首相の「午前3時出勤」は、一見すると首相の熱心さを示すニュースのように思えます。
しかし、その裏にあるのは、霞が関全体の“悲鳴”とも言える現実です。
野党の質問通告遅れだけでなく、構造的な過労体質、デジタル化の遅れ、そして「働く人を守る」という意識の欠如。
これらを放置すれば、日本の行政力そのものが疲弊していくでしょう。
改革のカギは、「効率化」ではなく「人を守る仕組み」づくり。
官僚たちが安心して働ける環境を作ることが、結局は国民のためにもなるのです。
📚 参考・引用元一覧
高市首相「午前3時出勤」の真犯人は誰?(note)
毎日新聞「高市首相、異例の午前3時出勤」
デイリー新潮「ブラック霞が関」
読売新聞「ブラック霞が関」
日本経済新聞「脱ブラック霞が関へ」
ZAITEN「千正康裕氏インタビュー」
Forbes JAPAN「霞が関のDXを阻む要因」
TRANS+「ブラック霞が関からの脱出」
