過疎地域の周産期医療が危機的状況にあります。
出産施設の減少や医師不足により、「分べん空白市町村」が増加し、妊婦の長距離移動やNICUのひっ迫が深刻化しています。
本記事では、現状と具体的な問題点、成功事例を含めた改善策を詳しく解説。
過疎地域でも安心して出産できる未来のために、今できる対策を考えます。
過疎地域における周産期医療の現状と課題
過疎地域における周産期医療の現状は、年々厳しさを増しています。
少子化や医師不足の影響で、出産施設の閉鎖が相次ぎ、「分べん空白市町村」と呼ばれる、出産できる施設が一つもない地域が増加しています。
この問題が及ぼす影響と背景について詳しく見ていきましょう。
① 過疎地域で進む「分べん空白市町村」の拡大
NHKの調査によると、全国1700あまりの市町村のうち、出産施設がない自治体は1042市町村に上り、全体の約6割を占めています。
10年前と比較すると、35都道府県で「分べん空白市町村」が増加し、縮小したのはわずか4県のみです。
これにより、妊婦が遠方の医療機関まで長時間かけて移動しなければならないケースが増えています。
② 医師不足と診療所の閉鎖が進む背景
過疎地域では、産婦人科医の不足が顕著です。
特に高齢の医師の引退が相次いでおり、新たな医師の確保が難しい状況が続いています。
また、少子化の影響で出産件数が減少し、経営が成り立たなくなる病院も増えているため、産科を閉鎖せざるを得ないケースが後を絶ちません。
③ 周産期医療の集約化とその影響
このような状況を受け、国や自治体は産科機能の集約化を進めています。
たとえば、妊婦健診は近くの診療所で行い、出産は設備の整った大病院で受ける「セミオープンシステム」の導入が進められています。
しかし、これにより妊婦が出産のために長距離移動を強いられるなどの新たな課題も生じています。

過疎地域における周産期医療の具体的な問題点
周産期医療の不足が招く問題点は多岐にわたります。
ここでは、特に深刻な課題を掘り下げていきます。
① 妊婦の長距離移動によるリスク
分娩施設が近くにないため、多くの妊婦が長距離を移動しなければならない状況にあります。
中には、片道1時間以上かけて病院へ通うケースも珍しくありません。
また、出産時の緊急搬送が必要になった際に、間に合わないというリスクも懸念されています。
② NICU(新生児集中治療室)のひっ迫状況
高齢出産の増加により、NICU(新生児集中治療室)の需要が高まっています。
全国のNICUの多くが満床に近い状態であり、緊急搬送を受け入れられないケースも発生しています。
これにより、出産時に適切な医療を受けられない妊婦や新生児が増えているのが現状です。
③ 高齢出産の増加による医療負担の増大
晩婚化の影響で、35歳以上の妊婦の割合が増加しています。
35歳以上の高齢出産では、妊娠高血圧症候群や早産のリスクが高まるため、より高度な医療体制が求められます。
しかし、過疎地域ではこうしたリスクに対応できる病院が少なく、都市部へ搬送されるケースが多発しています。

過疎地域での周産期医療改善のための既存の対策や成功事例
このような問題に対して、いくつかの地域では改善策が講じられています。
ここでは、具体的な対策や成功事例を紹介します。
① 「セミオープンシステム」の導入事例
妊婦健診を自宅や職場の近くで受けられる「セミオープンシステム」は、長距離移動の負担を軽減する有効な手段です。
山形県では、最上地域・置賜地域などでこのシステムを導入し、妊婦の負担軽減を図っています。
関連 日本赤十字社医療センター オープン・セミオープンシステム
② 医師派遣や遠隔医療によるサポート体制
高知県では、高知赤十字病院に近隣の病院から産婦人科医を派遣し、医療提供体制の維持に努めています。
また、遠隔医療の活用により、妊婦が地元で健診を受けながら、必要に応じて専門医の診察を受けられる体制が整備されています。
地域医療体制の現状
① 県ごとに異なる支援策とその効果
自治体ごとに交通費助成や宿泊費補助などの支援策が実施されていますが、その内容や対象範囲はバラバラです。
統一した支援制度の確立が求められています。
② 緊急搬送システムの整備状況
現在、多くの自治体が救急搬送システムを強化していますが、NICUのひっ迫により、受け入れ先の確保が困難なケースが増えています。
過疎地域の妊婦や子育て世帯の声
実際に過疎地域で出産・育児を経験した人々の声を紹介します。
① 妊娠中の不安と移動負担の実態
「妊婦健診のたびに片道2時間以上かかるのは本当に大変」
「冬場は雪で移動が困難になるので不安が大きい」
このような声が多く寄せられています。
過疎地域の周産期医療は、医師不足や病院の閉鎖により危機的な状況にあります。
一方で、セミオープンシステムの導入や医師派遣などの対策も進められていますが、依然として解決すべき課題は多いのが現状です。
今後は、自治体・医療機関・地域住民が協力し、持続可能な周産期医療体制を確立することが求められます。

まとめ
過疎地域における周産期医療は、医師不足や病院の統廃合により、危機的な状況にあります。
出産施設がない「分べん空白市町村」は全国で増加し、妊婦が長距離移動を強いられるケースも少なくありません。また、高齢出産の増加に伴い、NICU(新生児集中治療室)の需要が高まり、多くの病院で病床がひっ迫しています。
こうした問題に対し、自治体や医療機関では「セミオープンシステム」の導入や、医師派遣、宿泊施設や交通費の助成などの対策を進めています。しかし、地域ごとに支援の内容が異なり、十分な体制が整っていないのが現状です。
今後は、行政や医療機関、地域住民が協力し、持続可能な医療体制を確立することが求められます。
過疎地域でも安心して出産・育児ができる社会を実現するために、さらなる支援と制度の充実が必要です。


参照元
厚生労働省 周産期医療体制のあり方に関する検討会 周産期医療体制の地域差と方向性 ~将来需要やアクセスを踏まえて~
公益社団法人 日本産婦人科医会 (2)周産期医療の再興
厚生労働省 新たな地域医療構想の検討状況について(報告)
東北活性研 Vol. 52(2023 夏季号) 地域医療の現状と課題の概観 調査研究部 主任研究員 加藤 雄一郎
総務省 過疎対策室 過疎地域における医療の確保について 資料3
厚生労働省 青森県地域医療再生計画
一般社団法人自治体DX推進協議会 災害時でも、過疎地域でも、安心できる周産期医療提供体制を実現
厚生労働省 周産期医療体制の現状について
厚生労働省 周産期医療提供体制の確保について
厚生労働化学研究成果データベース 地域格差是正を通した周産期医療体制の将来ビジョン実現に向けた先行研究
「文献」過疎地域における妊婦の通院時間と妊娠期の不安の関連